止まない雨は無いと言う。それはまた雨が降るという事だろう。
明けない朝は無いと言う。それはまた夜が訪れるという事だろう。

何事にも終わりはあると。そんな事は分かってる。だけど、こんなにもはっきりとそれを味わう羽目になるなんて、つい昨日まで考えていなかった。いつものように声を掛ければいつものように返事が返ってくると、当然のように考えていた自分が甘かったのか。現状に甘えてそれ以上を求めなかった自分が悪いのか。………と言っても、何をすれば夜が来るのを防げるのかなんて、知っている人間がいたら教えて欲しい。

気安い声に返されたのは、明確な拒絶の言葉でも、荒々しい罵倒でも無く、緩やかな黙過だった。

他人にならば笑って済ませる。
知人なら傷つくだけで済む。
友人なら絶望感に苛まれる位か。

それなら愛する者にならどうだ。

誰にだって自殺を考えた事の一つや二つはあるだろう。子供のときの一種の無邪気さからでも、大人になってからの深刻な懊悩からでも。それでも俺のこの様を見ていられるという事は、結局それは死ぬに値しなかったんだろう。

明かりの消えたリビングで、キッチンから漏れる僅かな光を感じながら俺は一人、タナトスと格闘していた。どうしようもなく辛い、どうしようもなく哀しい。半身を失ったような喪失感。

ふと顔を上げると、一つの視線に気が付いた。いつもなら笑いかけてくれるその瞳は、今は哀れみしか映していない。

「キョン」

「同情なんていらないんだ。きっと俺はどこかで間違っちまったんだろう、だからこんな事になってる」

「………キョン」

「もう生きていく目的が見つからないよ。このまま絶望感に苛まれたまま生きていくくらいなら、いっそ俺は幕を引きたいと思うんだ」

「………………キョン」

「これ以上傷を抉らないでくれ………」

テーブルに顔を伏せる。これ以上ハルヒの顔を見ていられなかった。見ていたら、ついさっきの事まで思い出してしまうから。だから、視界を塞いだ。

そんな俺を見て、ハルヒは。

無言で俺をぶん殴った。ずぐん、と鈍い音が脳天に響く。もう一度言おう。ぶん殴った。

「痛いぞハルヒ………心も頭も………」

「何よ、ちっさな事でネチネチ落ち込んでるのが悪いんじゃない。電気まで消して雰囲気作りして、女々しいったらありゃしないわよ。痛いっていうよりイタいわ」

「ちっさいだと!?平均よりは大きいぞ!」

「何の話よ!」

「それは冗談として、あれのどこがちっさい事だって言うんだ!俺の人生の価値の半分くらいを失ったも等しいんだぞ!大問題だ!」

「あんたの人生はどんだけ投売りされてんのよ!
閉店間際のお弁当よりも安っぽい人生ね―――娘が一緒にお風呂に入ってくれないくらいで!」

「大問題だろうがこの野郎!」

もう一度殴られた。





<平穏な暮らし>






仕事から帰った午後の十時。いわゆるゴールデンの時間帯の終りを告げる頃にその悲劇は起こったのだ。

もう入社して数年が経ち………というか晴奈の年と同じ数だけ働いているのだから六年が経ち、すっかり会社の仕事にも慣れ、それなりのポジションに就くことにも成功した俺。現代の社会では珍しい事に残業を出す事もほとんど無く、定時に帰宅して家でくつろぐ事が多いのだが、今日は偶然に三つ四つと緊急のタスクが入り、久しぶりの残業を片付けて家路についた俺は、身も心もクタクタだった。だから俺が愛する娘による癒しを求めたところで何の違和感も無いはずだろう、文脈的に。

しかし。

『晴奈、一緒に風呂に入ろう』

その言葉は冬の空に吸い込まれていったのだった。ちくしょう。

前述したように今年で六歳になった晴奈はすくすくと成長しており、日に日にハルヒにそっくりになってきている。この間なんか俺が起きた時に、晴奈がサザンの「Oh!クラウディア」を歌っていて(わが子ながらチョイスが渋過ぎる)、すわハルヒの能力が再発して過去に飛ばされでもしたかと慌てた物だ。顔と性格がハルヒ似なのは、単にアイツのDNAが俺のソレを駆逐するくらいに主張が強かったからであり、しかしボケとツッコミを両方こなすその姿には間違いなく俺の遺伝子も組み込まれているのが分かる。

のろけさせてもらえるならば、晴奈は産まれた時から俺に懐いていて、一時期は仕事に行くのも晴奈という門番を毎朝巧みな話術で倒してからなどという、仕事前にヒットポイントの半分をロスするような真似をしていたものだ。結局、仕事場にまで強襲を仕掛けてきた晴奈をどうにかする事などできず、最初の一年くらいは俺がアイツを負ぶったまま仕事をしていたのだが。ハイハイしかできなかったのにどうして来れたかというのは、ウチの職場の七不思議の一つに数えられている。

ハルヒに対しては何故か尊敬の念を抱いているらしく、過去の俺たちの活動を詳細に記録したり、またハルヒ名言録的なものまで作っていたり。この間部屋に入って「世界は私の手の中」などという張り紙がしてあるのを見た時は、眩暈を覚えた。ハルヒは俺のほうに懐いている事に多少の不満があるらしいが、母親としての矜持か、はたまたツンデレの為せる業か、口には出さない。

と、とにかく俺にはべったりだった晴奈。今までは毎日一緒に風呂に入っていたのだ。それが今日はこのザマ。泣きたい。

「っていうかもう泣いてるじゃないアンタ」

「うるせえ………繰り返すが半身が失われたような物だぞ、泣かずにおられるか!」

「半身って、それじゃあアタシがキョンの中に占める割合はどうやってもあの子未満じゃない!」

「ふん、もう半分はハルヒだ。丁度同じだな」

「それじゃあ自分が無いでしょうが!いい加減な事言ってんじゃないわよ!」

「バカだな、ハルヒ………」

「な、何よ………、そんな顔したって誤魔化されないんだからねっ!」

「俺はお前の心の中にいればそれでいいんだよ………」

「キョン………!」

「ハルヒ………!」

甘え。血反吐を吐くほど甘え。しかし俺は結婚生活六年目でこんな事には慣れっこだったのだった。御免なさい世の皆様、俺はイチャつくカップルを毛嫌いしていたトガった自分を失ってしまいました。

「あたしと晴奈が溺れています。あなたはボートに乗っていますが一人しか助けられません。さて、どちらを助けますか」

「泳ぎは得意なんだ、二人をボートに乗せて沖まで泳ぐに決まってるだろう」

「キョン………!」

「俺と晴奈が崖から落ちそうになっていて、どちらも手一本で辛うじてもっている様な状態だ。さあ、どっちを助ける?」

「あんたくらい片手で支えて見せるわよ。両手を使えば二人助かるわ」

「ハルヒ………!」

甘え。毒手の毒が裏返ってもう一回反転して宙返りした挙句なんかおいしい味になった、くらいに甘え。結婚生活も六年目となれば、愛を確かめ合う儀式もパターン化されてくるものだ。ただ、毎回質問は変わるので、お互いに気を張り巡らせていないと上手くいかない羽目になってしまう諸刃の剣だ。

「諸刃の剣で怪我する人ってとんでもないドジか不器用かよね」

「確かになあ」

どうでもいいが。

「まあそういうわけでだ、晴奈が俺を避けているという件について話し合いたいのだが」

「まだ引っ張るのね………」

そりゃお前、大問題だと言っただろう。半分が愛に満ちたとしても、もう半分は空っぽなのだから。

「原因をいくつか考えてみたんだが。一つ目は、思春期」

「いくら早熟でも六歳から思春期は無いわよ」

「女の子でも?」

「女の子でも」

成る程、考えてみれば俺が保育園に通っていた頃や小学校低学年の時は、男も女も違いを殊更に感じることなんか無かったし。ハルヒの言った早熟というのはもちろん晴奈の事で、歩き出したのも言葉を喋りだしたのも、同年代の他の子供よりも早かったからだ。そして、この間の風呂場での会話なのだが、

『ぱぱ』

『んー?』

『ぱぱの××××は○○でわたしの△△△△を●●すると▲▲▲▲ってほんとう?』

『………………………』

『ぱぱー?』

『………………………』

『ままー、ぱぱのおめめがしろくなってるー』

という事があったのも、早熟たる所以の一つだ。それを聞いた俺は、黙ってしまったのではなく気絶してしまい、危うく娘に引導を渡されるところだった。結局本人はその文字にするのも躊躇われるような言葉の意味を理解しておらず、ハルヒによるドッキリだったことが露見するのだが、それはまた別の話。

「ちなみに生理は………」

「まだに決まってんでしょうがっ!」

いや、女性の生理学なんぞは学んだ事も無いのでとんと知らないのだが。そうなのか、赤飯を炊くのはまだ後か。成長していくのは素直に嬉しいが、それが結婚を代表とする別れへのカウントダウンな気がして少し鬱になってしまうのも、やはり気が早いのかね。

「じゃあ原因予想二つ目。反抗期………」

「それもまだ早い!」

「確かに六歳にして暴走族に憧れるってのは聞かんなあ」

「アンタにとっての反抗期は暴走族への憧憬なの………?」

萌え産業も多様化を極めている現在なら、それくらいはありそうな気もしないでもないが。総隊長六歳児とか。数年前から特に過激化してきて、ツンデレを始めとしてヤンデレなんという意味の分からないものまで登場してきて、もはやレッテルを貼ることで強制的に萌え要素に仕立て上げて自分を納得させているような。いやそれは言わぬが花か。

いやいや、今は今後の萌え産業について思いを馳せている場合ではないのだった。このまま晴奈に無視され続ける事があれば、おそらく俺の赤い実は逆の意味で弾ける事だろう。

「ああ、『赤い身弾けた』?」

「誤字がグロ過ぎるぞハルヒ。懐かしの国語教材をスポイルするような事を言うな」

「『爺ちゃんの金送り』」

「孫に甘いぞ爺さん!ちいちゃんだし、影送りだっつうの!」

「どっちにせよバッドエンドだけどね」

「オレオレ詐欺か………」

いやいや、今は小学校時代に思いを馳せている場合ではないのだった。大体、もしこれがローカルネタだったらどうするのだ。カマキリりゅうじ位にしておけよ。あついぜ。話を戻そう。

「じゃあこれが最悪の予想なんだが………単純に俺が嫌いになった………?」

「それが一番もっともらしいんじゃない?」

「気休めでもいいから否定してくれ………うっかり窓から自由落下をかましてしまいそうだ………」

「五接地転回法をきちんと習得してから跳びなさい」

「いや、止めろよ!」

マジで。

しかし、もし嫌われているとして、それが原因で晴奈にシカトをされているとして。じゃあ何が俺の株を暴落させた原因なんだ?今日の朝はいつも通りに晴奈と対決してから出勤したし、その時点では確かにいつも通りだった筈。

以前、会議の最中に電話を掛けてきた時に留守電に切り替えたらそれはもう盛大に機嫌を損なわれたので、それからはちゃんといかなる時でも出るようにしているし、今日だって。日課となっている日に三回のこちらからの電話も欠かさないし、ハルヒ以外の女性と過剰に話したりもしていない。となると理由の程が………もしかして今日の昼に長門とメシを食ったからか?いやでも、あいつは長門にすごく懐いてるしな………。

「有希の件は後で追及するとして………あんた、娘に尻に敷かれすぎとは思わない?」

「お前こそ、そこまでされても平気になる程に尻に敷いた人物に心当たりは無いのか」

「アンタこそ自分の性癖が原因とは思わないのかしら?」

それを言われたら………先の萌えの迷走の話ではないが、性癖も結局は自己の正当化になりがちな問題で、自分はMだからキツく当たられても平気だとか、Sだから言動が荒くなるとか、そういうのは思考停止ではないかと思うのだ。本当に快感を覚えているならそれでもいいのだが(なんつう表現だ)俺は殴られたら気持ちいいはず、なんて順序が逆になっている人も少なくは無いのではないか。いや、現状に心から満足している俺が言うのもなんだが。

「やっぱり原因が分からん………もしかしてまたドッキリか?」

「アンタが風呂場で本気で溺れかけたの見てやる気も失せたわよ………ドッキリで死ぬなんて、どう考えても成仏できないじゃないの。それはそれで面白いかもしれないけど」

「人の生死を面白おかしく語るなよ………」

「だって、そうすればずっとあたしの傍にいてくれるじゃない」

「ハルヒ………!」

「キョン………!」

通常日よりも三倍増しの甘さとなっておりますご了承ください。結局その後も同じようなやり取りが続いたのだが、答えが出る事は無かった。



向き合っている扉の向こうには、晴奈の部屋がある。小学校に入学したと同時に与えた物だ。とはいえまだまだ若造の俺たちにそこまでの財力などあるはずもなく、俺の部屋を明け渡しただけなのだが、働きだしてしまえばそこまで部屋にこもってやる事もないし、寝室さえあれば、日中はリビングでくつろげばいいし、大して不便を感じる事はない。

きっとすやすやと寝息を立てているであろうその顔を思い浮かべると、本当に胸が張り裂けそうになる。ついこの間までは一緒の布団で眠る事だって多かった。今では目の前の薄い扉が、とてつもなく強固な壁として立ちはだかっている。

はあ。どうしろっていうんだ、俺に。暗い廊下に立ち尽くす。

「まだ落ち込んでるの?」

いつの間にか俺の後ろには、ハルヒが立っていた。苦笑いのような声。

「まったく、少しくらいの事で取り乱しすぎよ。深刻に考えなくてもいいと思うわ」

「でもなあ………明日は元通りになるなんて保障はどこにも無いんだぞ」

晴奈を起こさないように、お互いに小さな声で。

確かに少し度が過ぎているかもしれないが、愛ゆえにといえば八割がたは納得してもらえる物と思う。それに、所帯を持って多少なりとも保守的にならない人間というのは問題があるだろう。

「それならアタシが保障してあげるわよ。明日は絶対に大丈夫」

「それは母親としての意見か………?」

「ややこしく考えないでよ。アタシの意見、それでいいでしょ」

ああ、それなら信用していいか。何せ俺の半分はハルヒで出来ているのだから、少なくとも半分は無条件で信頼できる。ああ、晴奈だって半分はハルヒで出来ているのだから、そう考えると俺の七割五部はハルヒでできているのか。あの錠剤を超えたぜおい。つまり式にして表せば、

x=俺、y=ハルヒ、z=晴奈とすると、x=(y+z)/2
 またz=(x+y)/2より代入してx={y+(x+y)/2}/2
 x=y、よって俺=ハルヒ

となる。あれ、結局俺は全部ハルヒになってしまうな、おい。どっかでループしてる?

「文系なのに計算なんかするからよ、根本的に間違ってるわ。アンタは掛け算入門くらいで我慢しておきなさい」

「うおお、割り切れねえ………」

そりゃあ計算は弱いけどさ。オールラウンドプレイヤーだったハルヒなんかとは違って、俺なんて大して得意な教科も無かったし。

まあでも、少しは気が楽になった。まだ小さい晴奈のことだから、明日にはすっかり忘れていてくれるかもしれないし、少なくとも俺の味方はここに一人いるからな。

ありがとよ、と俺の口が言葉を紡ごうとするまさにその瞬間、

「まあでも、少しくらいなら甘えてもいいわよ。仕事も立て込んでたしね」

「む?」

甘えさせてもらえる、と。

「一つだけなら言うこと聞いてあげるわ。最近頑張ってたご褒美に」

「むむ」

これは思わぬところで思わぬ収穫というか、野球の試合でボールを打ったら憎い鬼監督に直撃したみたいな、そんな感じ。

そうなれば、何をお願いするかなのだが。今日のところは、一つしかあるまい。お願いをするのだから、いくら夫婦となった今でもそれなりの礼儀を以って接せねば。姿勢を正し、真っ直ぐにハルヒの目を見て、そして何よりも、願いを込めて、大きな声で。

「一緒に風呂に入ってくれッ!」

「うっ………」

あまりの勢いに気圧されたか、それともお願いの内容に恥じ入ったか。確かに、今更という事を改まって言われるというのは、結構恥ずかしいものだ。しかし、言うほうが恥ずかしいに決まっているのだから、早く答えて欲しい物だ。

「わっ、分かったわよ………」

おっ、どうやら受け入れてもらえそうか?



「しっ、仕方なくなんだからねっ!」

「しっ、しかたなくなんだからねっ!」



………………………。



「え?」「え?」「え?」



脳神経の数というのは、子供の頃が一番多くて、年を経るにしたがって徐々に減っていく物なのだそうだ。日頃頭を使っていればその速度は落とせるが、結局のところ成長期の子供と大人とでは、物理的に学習能力に差が生じる。

つまり、六歳の晴奈は今がまさに学習の絶頂期。

今日のお昼に覚えた事は、男の人に対する態度。

要するに、ツンデレを覚えたのでした。

「ほれ晴奈、ちゃんと目をつぶれよ」

「しっ、しかたなくなんだからねっ!」

「ちゃんと細かいところも洗ったか?」

「しっ、しかたなくなんだからねっ!」

「もう一回お湯掛けるぞ?」

「しっ、しかたなくなんだからねっ!」

「したたかに、って言ってみてくれ」

「しっ、したたかくなんだからねっ!」

「虫歯が出来たらどうするんだ?」

「しっ、歯科にいくんだからねっ!」

しかし、いかんせん応用力が低かった。会話にならないが、まあこれはこれで面白かったり。今日のつれない態度も、ツンデレを試していたという事で、どうやら嫌われていたわけではないようだ。安心安心。

「やめとけ晴奈、そういうのは自然と自分のうちから発生する物であって、作る物じゃないんだ」

「………うん、ぱぱ」

そうそう、このくらいの年なら素直なのが一番だ。大体、ツンデレになりきろうなんてのは、某超配管工兄弟の二作目よりも難易度が高い。女性誌の特集なんぞ見てみろ、眩暈がすること受けあいだ。そんなエセツンデレなんぞされたところで虫唾が走るだけだろう。

「幸いお前にはサラブレッドの血が流れてるからな、その内自分の物に出来るさ」

「何よサラブレッドの血って!アタシは別にツンツンなんかしてないっ!」

してる。現在進行形でしてる。一緒に風呂に入ってる時点でデレ決定だしな。

「ふんっ………でも晴奈、どうして急にそんなことしたの?」

「すきなひとにはそういうことするって、おしえてもらったの」

「誰にだよ」

「いつきおにいちゃん」

古泉コロス。アイツは今小学校の教師をしていて、その姿は思った以上にハマリ役だったのだが………晴奈の担任だったわけだ。別にそれに問題があるわけじゃない。教師の犯罪が日常的に発生するようになってきた昨今では、むしろ安心だろう。古泉が晴奈に手を出す事は十割無いからな。理由は言わずもがな………いやいや、信頼しているだけさ。

だがしかし、晴奈を介してたまに俺に罠を仕掛けたりする事がある。それが今日だったと。

「晴奈よ、先生の言う事は冗談半分に聞いておきなさい」

「そのアドバイスはどうかと思うわ」

「せんせいのおはなしはちゃんと聞かないといけないのよ、パパ」

「ケースバイケースだ」

まあ、とにかく。結局俺の心配は杞憂だったわけだ。俺は明日からも二人と共に楽しく暮らしていけるという訳で、

「ほら晴奈、湯船に入れるぞ〜」

「しっ、しかたなくなんだか………わぷっ!」

「ほれ、ざっばーん」

今日も我が家は平和だった。
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