ビ――――――――――――――――――ッ。

二人の会話を邪魔するように、機械的な音が響く。出発時刻までもう時間は残されていない。あと数分もすれば俺は、ともすれば命の危険さえ考えなければならないような旅へと赴く。それならせめて、残された時間だけは、愛する人と一緒にいたい。

「お前を残して旅立つ俺を許しておくれ、晴奈。もしかしたらこれが最後の挨拶になるかもしれないけど、俺はお前を愛していたと、それだけは覚えておいてほしい」

ビ――――――――――――――――――ッ。

苛立ったように続けて鳴らされる警告音。呼ぶ声は無慈悲で、別れの言葉も満足に伝えさせてはくれないらしい。俺は娘に背を向けて、覚悟の決まらない心の内を隠すように、確かな足取りでそこへと向かう。目前の窓からは、死地へ誘う非情な顔。心が揺らいだその瞬間、後ろから抱きつかれる。

「パパ、いっちゃイヤ!もうわがまま言わないから、いい子にしてるから、だから、行かないで!」

ビ――――――――――――――――――ッ。

「ありがとうな晴奈。でも仕方ないんだよ、いつかはこうなる運命だったんだ。これ以上待たせちまうと、お前にまで危険が及ぶ」

「いいの!パパが死ぬならわたしだって一緒よ!」

ビ――――――――――――――――――ッ。

「晴奈………!」

ビ――――――――――――――――――ッ。

「パパ………!」

後ろに向き直り、晴奈と抱き合う。その刹那。ガチャン。バタン。どすどすどす。そんな音が背後から聞こえた。そして、お約束の一撃が―――

がすんがすん。痺れを切らして車内から出てきたハルヒは、娘をも容赦なく殴った後、二人を交互に睨みつけた。

「痛いぞハルヒ………」

「いったーい!何するのよママ!」

「親子揃って往来で抱き合ってるからでしょうが!
家の前でそんなことしてご近所から変な噂が立ったら大変でしょう!

大体イチイチ大袈裟なのよ―――――――――たかがあたしの初運転くらいで!」

「「初運転だからだろう(でしょう)が!」」

二人揃って殴られた。





<クレイジー・ランデブー>






”Wrap me up in the back of the trunk, packed with foam and blind, drunk.
They won't ever take me alive, 'cos they all drive………♪”

「あら、中々いい歌じゃないキョン。なんていう曲かしら?」

「さあな………」

ご機嫌なハルヒは、カーステレオから流れ出す軽快なテンポの曲に身を乗せてハンドルを捌く。俺は助手席で、前の車との車間距離を気にしながら、ギュッとシートベルトを掴んだ。ちなみにこの曲、題名を『Killer Cars』という。車に対する偏執的な恐怖を綴った歌詞は、確かにこの状況にはピッタリだった。もしもの時の事を考えて家に置いてきた晴奈の、最後の哀れむような顔が忘れられない。あの時俺は後ろ向きに引き摺られて、車の助手席に叩き込まれたんだったか。

なんとハルヒ、二十代も半ばを過ぎたこの年になってまで免許を持っていなかった。職場は同じなので俺が運転していけば通勤に問題はないし、一人行動でも、買い物なら近場で済ませるか駅まで行ってから電車移動すれば事足りるので、不自由はなかったのだが。経済的にもある程度安定し、晴奈も小学校に慣れて子育てに今までより時間を取られなくなったということで、免許取得に踏み切ったのである。

「あー、そこを左だ」

「言われなくても分かってるわ、よっ!」

キキキッ、と甲高い音を立てて、減速する事も無く車はほぼ直角に曲がった。カカカッ、とギアの切り替えも澱みなく。そう、ハルヒは女性には珍しく、というか実際に使われている状況を考えれば全体的に珍しく、マニュアルの車を運転しているのだ。頼むから頼むから、と土下座までしたお陰でスポーツカーではなくて普通の軽なのは、数少ない救いである。

ちなみに俺が持っている車はオートマだ。今やクラッチ操作なんて記憶の奥底に埋もれてしまっていて、運転を代われといわれたら絶対にエンストさせる自信がある。

「やっぱりクルマに乗ってるって感じがするわよねー、マニュアルは。教習所でオートマの運転もさせられたけど、あんな物はゴーカートよゴーカート。スムースな速度調整とギアチェンジ、コーナリングこそが走り屋としての醍醐味でしょ」

本格的公道デビュー初日から走り屋宣言するヤツも珍しいが、確かにハルヒの運転はバツグンに上手い。車体の前と後ろ、法律通りの位置に貼り付けられた初心者マークが申し訳なく思えるほどに。

「どうよキョン、このハンドル捌き!コップの水、零れてないでしょう?」

ホルダーに置いてあるコップを見やる。確かにコップに並々と注がれた液体は、表面張力ギリギリの状態を保ったまま一滴も零れていない。驚異的な安定感だ。

それじゃあ俺が一緒に乗るのを渋る理由なんて無いだろう、と思うだろうか。

しかしだな、俺は見てしまっているのだ。あの日、ハルヒを教習所に迎えに行ったあの晴れた日。天気との相乗効果もあって、余りにも晴れ晴れとした表情をして教習車から降りてくるハルヒと、天気との対比もあって衝撃的なほどに疲労していた教官、そして二人の生徒を。



ハルヒが何かやらかした事は明白だった。既にそんなことは日常茶飯事だった俺は、菓子折り持って教官の下に走ったさ。そこで聞いた話によれば―――その日は高速教習だったらしい。その日までのハルヒは、女性にも拘らずマニュアルをいとも簡単に乗りこなし、かつ同乗者へ負担を掛けない運転をする生徒として評判だった。俺が言うのも難だが、見た目だけは一般向けのハルヒである。そこで俺一点受けの強烈な性格を一般向けのマスクで覆い隠してしまえば、完璧超人の誕生だ。だからこそ、教習の中でも命の危険が一番高い高速教習まで一直線に突き進んだのだ。だが。それは哀しいかな、擬態だったのである。

ハルヒがその日やらかしたことは、簡単に言えばパトカーの追跡だ―――しかも高速道路上の。巧妙な事に、速度違反を取り締まるパトカーが走り去ってある程度の間を置いてから、アクセルベタ踏みで最後まで走り切ったらしい。高速上で補助ブレーキを踏むのは相当に危険で、皮肉な事にハルヒの華麗な運転テクニックが、更にその足を躊躇させた。その教習の最初にした『アクセルはベタ踏みするように』という注意―――これは、生徒は速く走るのを怖がるのに対して、実際は速度が足りない方が高速道路上では危険だからだ―――が、完全に裏目に出てしまったよ、と虚ろな目を向けてくる教官に、俺は平謝りするしかなかったのだった。



キュキュッ、と、またも軽快な音を立ててカーブを曲がる。目的地の海まではまだ少しある。

「ふふん、やっぱりわたしは天才ね〜。この調子なら公道最速も夢じゃないわね!」

「おいおい、次は豆腐屋の車でも買うのかよ」

「その場合はヒロインはアンタね」

俺は売春なんぞしたくないのだが。

「まあ、あんな風にお金にモノをいわせて勝ってもうれしくないわよ。わたしならアンタを助手席に乗せて晴奈を後ろに乗せたまま溝落としを決めてみせる!」

「やるなよ………用水路を見るな!絶対にやるなよ!」

「わかってるわよ。こんな緩い場所でやったって面白くないじゃない」

「キツいとこではもっとやるな!」

俺は尤もな事を言っているよな?ハルヒがアヒル口になっている事の責任は無いよな?

「まあいいわ、もう少しで高速に入るし。そこを抜ければ目的地もスグね!」

これだ。俺が嫌がった理由はこれなのだ。先ほどの教官の話、あんなものを聞いてしまったら恐ろしくて同乗していられないだろう?しかし、ハルヒもやるものである。結婚して六年、既に俺の性格などお見通しで―――改札口で説得されて今に至る。恐るべき技である、改札口。実は後払いなので、死んでも死ぬわけにはいかない。そんな風に考えている間に、高速との分岐が見えてきた。

「なあ、下の道でゆっくりといかないか?俺はお前とゆったりとした時間を過ごしたいんだが」

「わたしはアンタと濃密で刺激的な時間を共有したいの」

「こんな突き抜けるような陽気には、空の青を眺めながらのんびりとだな………」

「そんなの忘れられるくらいの、虹色の時間を体験させてあげるわよ!」

うわあ、すごく情熱的。それってよく見たら走馬灯じゃないのか?迷う事無く左に切られたハンドルを見て、死ぬ時は一緒、というこっぱずかしいプロポーズの言葉を思い返していた。いや、俺は言われた側なんだが。



僕らは歩く災害だ、と歌ったのは誰だったか。今の俺たちはそんなもんじゃない、激走する災害である。ジェットコースターに乗った時の、あの内臓が浮き上がる感覚。それがずっと続いていて、朝比奈さんあたりが一緒に乗ったら気をやってしまうのではなかろうか。いまやすくすくと成長している妹なら、楽しむかもしれないが。

上がり続けるスピードに、ギュッ、と再びシートベルトを掴む。

「なあハルヒ、もう少しスピード落とさないか?他の車、ビュンビュン抜かしてるぞ」

「あんたは”高速”の意味を百回ほど辞書で調べた上でノートに二百回書いて提出しなさい。高速よ高速。他の車が遅いの!」

「高速って大体80キロくらいだと思うんだが………」

「あたしの辞書にはそんなこと書いてないわね」

うわあ、すごく横暴。ミセスタイラントと名付けよう。俺はミスター共和王でひとつ。しかしまあ、反射的に体はシートベルトを掴んでしまうのだが、理性としてはこのままいけば事故の心配も無くドライブを終えられるだろう、ということも分かっていた。法定速度は既に数十キロ単位で遥か後方だが、このちっさな軽が高速道路上で名立たる車両群を追い抜いていくというのは、いかにも日本人的な楽しさがある。

「おいおい、今抜いたのランエボだぜ………つうかどうしてこんなにスピード出るんだよこの車」

「ひ・み・ちゅ(はぁと)」

「(はぁと)じゃねえ!お前、公道デビュー前に改造しやがったな………」

危うく萌えてしまう所だったじゃないか。生きて家に帰ることができたら、その辺り追求しておこう。森さんあたりが絡んでいそうだ、あの人もスピード狂の気があるからな………。そろそろ高速も中間地点。帰るときの事を考えればまだ四分の一しか済んではいないが、大丈夫そうかな………と思った、その時。

後方から一台の車が、俺たちの横に並んだ。

「むっ。コイツ、バトルを仕掛ける気ね!」

「乗るな!つうか高速でバトルなんかしたら洒落にならんぞ!」

よく見ればさっき抜いたランエボだ。しかも最新型の\………三菱の名を冠した最新モデル。外見からして、元々の高性能を更にゴリゴリにチューンしてあるのが丸分かりである。車内を覗き込んでみれば、肩まで伸ばした髪にサングラスの、いかにも走り屋といった風体の男だった。運転しているのが女性なのが信じられないようで、しきりにこちらを確認してくる。

方やバリバリの走り屋使用のスポーツカー、方や愛らしい軽自動車。シュールだ。

「無視しとけよ………っておい!パッシングすんな!うわ、向こうもハザード付けてやがる」

バトル成立の瞬間だった………って、バトルを申し込むこっちもこっちだが、軽相手にそれを承諾する相手も相手だ。軽に勝って何が嬉しいのだろうか、とにかく止めないと―――と、思う間もなく、車はどんどんと速度を上げていき、今日のスピードレコードを更に更新していく。

「おいハルヒ、やめろ!ヘタしたら死ぬぞ!」

「うふふ、あたしに喧嘩を売ったことを後悔させてやるわこの○○○○野郎!」

「聞いてねえー!つうか喧嘩売ったのはお前だ!」

二組の車は、ギリギリの所で他の車を追い抜いてデッドヒートを繰り広げていく。このまま高速を降りたら、100キロくらいで走っても遅く感じてしまうかもしれないと、本気で思う。なんせ高速道路のくせして、他の車が流れるように後ろへ飛んで行くのだ。

既に目が据わっているハルヒは、これまでにも増して正確なハンドルと足捌きでぶっ飛ばしていく。対戦相手をちらりと見ると、まさか女がここまでやるとは思っていなかったのだろうか、相当に切羽詰った表情だ。

「このまま突っ切るわよ!あんな性能にまかせて走ってるような青二才に負けてたまるもんですか!」

「や、ほどほどにしといてくれると嬉しいなー俺は。愛してるぞハルヒ」

「わたしも愛してるわよキョン!そりゃー!」

俺の言外に込めたメッセージは届く事無く、更にアクセルが踏み込まれる。さっきまでベタ踏みだと思っていたものは、哀しいかな未だ地獄の一丁目だったという事か。とんでもない車だ。そりゃあ教官も茫然自失になるというものだ。これまでにも増したスピードで、もはやどんな車種を追い抜いたかも認識できないほどにかっ飛ばしていく。

相手もレースは慣れた物なのか、負けじと加速してくる。目まぐるしく変わる景色―――とは言っても、高速なんてものは大抵殺風景なものと決まってはいるのだが、後ろに吹っ飛んでいくラブホテルの看板やらなんやらが、その尋常ではないスピードを知らせてくれる。

「うふっ、ピリピリするわねキョン!やっぱ走りはこうじゃなきゃ!」

「お前の車に対する認識は相当に間違ってるぞ!」

もうこうなればノリノリである。一切の妥協も無く、一遍の狂いも無く、一瞬の油断も無いハンドル捌き。もともとのめり込めば最後まで一直線のハルヒだ、得意種目は勝負事、と言っても過言ではない。針の穴を通すような、車線を変更しているのではなくコースを走っているような、そんな滑らかさでゴールへとひた走る―――

―――が、しかし。やはりフレームの差は大きい。

そもそもがこちらの挑発から始まって、しかも相手は女ときている。相手にしてみれば、負ければ末代までの恥だ、という感じだろう。徐々にトップスピードの差が現れ始めた。それぞれに車線変更しながも横並びだった車体は、徐々にランエボが前に出始める。

「くッ………!そりゃギリギリまでチューンすればあっちの方が早くなるわよね………!」

「つうかギリギリまでチューンしてたのかよこの車!」

恐ろしい、どれだけ燃費の悪い車に仕上がっている事か。

とにかく、結局のところ、軽は軽なりの走りしかできないということだ。車体に入るだけの改造しかできないし、だからこそ平均的な速さはスポーツカーに負ける。勝るところは瞬発力くらいで、それはこの勝負にも適用されるわけで、これでカーチェイスも終りか………と思ったのだが、ハルヒの目の光はまだ爛々と輝いていて、どうにも止められそうにもない。

と。その瞬間、バックミラーに紅いランプが回転しているのが見えた。―――あれは!

「やばいぞハルヒ、警察だ!」

いつかは見つかるだろうと思ったが、勝負の決しかけているこの瞬間にかよ!追ってきているパトカーは一台だけで、要するに俺たちとランエボのどちらかが捕まる運命だということだ。それを察知したか、対戦相手は苦虫を噛み潰したような顔をして、更にスピードを上げていく。このままじゃあ俺たちが捕まる!速度違反くらいなら大したことはないが、しかしこのことが晴奈に知れてみろ、泣かれる事請け合いだ!

「仕方ないわね………キョン、あたしの手を握りなさい」

「なんだそりゃ………って、片手で運転するなよこの状況で!捕まるのと死ぬのなら捕まる方がマシだ!」

「片手の方が集中力が増すのよ!とにかく握りなさい!」

そこまで真剣な面持ちで言われては反論のしようもない、ここは言う事を聞いておく。きゅっ、と手を繋いだ。

「ありがとキョン、心強いわ。つぎ、そこの小物入れ、開けて」

「………?これか?」

命令の意図が汲めないままに、目の前に備え付けられたそれを開ける―――と、そこにはなにやら正方形のパネルが光り輝いていて、その真ん中には、どこかで見たようなマークが―――

「おいハルヒ、まさかコレって―――」

「押しなさい、キョン」

「いや、でもコレはちょっと………」

「押しなさい、と言ったの。死ぬ時は一緒、って言ったでしょう?」

いや、確かに言われましたが。しかしバックミラーを覗き込めばパトカーはもうスグそこで、対してランエボは俺たちより二馬身程先を行っている。このままでは結局捕まらざるを得ない―――それなら、一縷の望みに掛けてみるのも、俺たちらしいといえばらしいのか。

俺は、目の前のパネル―――表面に、見慣れた、目を持つキノコの描かれたそれ―――を、思い切り押し込んだ。瞬間、車体は嘗て無いほどの加速を見せる。一体どんな仕組みだよ!強大なGにより顔がビリビリと引きつるが、その衝撃と引き換えに、パトカーとランエボは遥か後方に置き去りにされていった。まるで某レースゲームのように。あ、捕まった。

「いやっほーう!!」

俺の右手を握り締めながら楽しげに声を上げるハルヒ。それを見ながら俺は、改造したやつ絶対ぶん殴る、と心の中で誓っていた。



「夕日がきれいね、キョン………こんな日には湾岸ポエムでも作りたくなるわ」

ある海の浜辺での物語である。国家権力からの逃避行に疲れた二人は、その疲れを癒すべく母なる海の傍へと立ち寄ったのだった………いやあ、どんな言い方をしてもさっきまでのショックは抜けない。正直、例の委員長に刺されそうになって以来の心臓の縮まり具合だった。今頃どうしているのだろうか、あのヒューマンインターフェイス。おでんでも作ってるのかな、うふふ。

「この雄大な景色を見れば、どんなことだって小さなことに思える。そうでしょ、キョン?」

うふふ、後方ではぶすぶすと煙の立つ音がする。高性能スポーツカーとの激戦を終えた軽車両は、その短い生涯をつい先ほど終えた。ハルヒは初期不良だ、リコールだと言っているが、どう考えても最後のブーストが原因だと思う。ぶすぶす。ああ、こうなるならもっと安いのにしておけばよかったなあ、スポーツカーをやめさせた見返りにそれなりのを買ってしまったからな、うふふ。

「なっ、なによその恨みがましい目は。わたしだって、少しくらいは反省してるんだからっ」

「………本当か?」

「本当よ!」

「具体的には?」

「えっと、次はフレーム負けしないような車で、ゴリゴリにチューンして………」

………ほう。詰まる所、全く俺の気持ちなんぞ分かってい無いということか。それなら仕方が無い。

「ちょっ、ちょっとキョン、なんでそんなに手をわきわきさせながら近付いてくるの?反省してるって………」

「俺はなハルヒ、本当に怒ってるんだ。………死ぬなら一緒、それは問題ない、俺はお前と死ねるならどんな状況だっていいさ、たとえマグマの海に突き落とされたとしても笑って死ねるだろうよ。………でもな、晴奈を残して、ってのは絶対にダメだ。お前の行動は余りにも軽率すぎた………だから」

「………だから………?」

「………お仕置きだ」

誰もいない海岸で、俺は華麗なルパンダイブを決めた。ひやぁぁぁぁ、という悲鳴を聞いていたのは海鳥たちだけで、だから、そのお仕置きがどんなモノだったのかを知る者はいない。みっちり一時間、虹色のお仕置きタイムが過ぎ去った後、俺たちは整備会社に連絡して、近くの駅から電車で帰った。



「おかえりパパ、ママ。無事でよかったわ」

「おう晴奈。また会えて嬉しいぞ」

「………ねえ、どうしてママ、顔が真っ赤で、その上パパの腕にしがみついて離れないの?」

………さあ?
BACK